大人と子どものアトピー性皮膚炎の違いとは
子どもがアトピー性皮膚炎を発症するのは
アトピー性皮膚炎は、慢性的なかゆみを伴う湿疹が良くなったり、悪くなったりを繰り返すアレルギー性疾患です。厚生労働省の補助事業で行われた「アレルギー性疾患対策に必要とされる 大規模疫学研究に関する研究」によると、小中学生の3人に1人は、アトピー性皮膚炎を含めた、何らかのアレルギー性疾患を患っていると報告されています。
発症に影響する「アトピー素因」とは?
アトピー性皮膚炎を発症するかどうか、確定的な答えは現時点では出ていません。ですが、発症要因の1つに「アトピー素因」の影響があることがわかっています。アトピー素因とは、以下の3つの要素になります。
■家族にアレルギー性疾患を持つ人がいる
■本人にアトピー性皮膚炎以外にもアレルギー性疾患がある
■免疫機能を持つIgE抗体が作られやすい体質
アトピー素因を持つ人は、アトピー性皮膚炎を発症しやすいと言われていますが、アトピー素因を持っていても発症しない人もおり、明確な発症メカニズムは解明されていません。
子どものアトピー性皮膚炎で注意したい「アレルギーマーチ」
アレルギーマーチとは、元々アレルギー性疾患を持っている人が、ほかのアレルギー性疾患を次々に発症していくことを指しています。乳児期に、アトピー性皮膚炎などの乳児湿疹があると、アレルギー性鼻炎や気管支喘息などのアレルギー性疾患に罹患する割合が高くなると言われています。
アレルギー性疾患の症状は様々あり、複数の臓器や全身にアレルギー症状が発生すると、適切な治療をしなければ生命の危険もあるアレルギー反応「アナフィラキシー」を引き起こします。重篤なアナフィラキシーの場合、意識レベルの低下や血圧低下などが起き、すぐに治療をしなければ、亡くなることさえあります。アナフィラキシーは食物アレルギーや薬物アレルギーなどによるものが多く、アレルギーマーチで複数のアレルギー性疾患を持つ人にとっては注意が必要です。
子どものアトピー性皮膚炎の主な症状は?
子どものアトピー性皮膚炎の症状は、かゆみを伴う湿疹が乳児期は主に頭や顔、首などに現れます。成長していくにつれ、胴や四肢などに広がっていきます。乳児の場合は2か月、それ以降は6か月以上、かゆみを伴う湿疹がつづくとアトピー性皮膚炎と診断されることが多いとされています。
子どもは体の器官の発達が未熟な状態であり、抵抗力も大人と比べて弱いことから、アレルギー性疾患以外にも病気にかかりやすい特徴があります。成長するにつれて機能が成熟し、症状が改善していくこともあります。
大人になってからでも、発症することもある
アトピー性皮膚炎は子どもの病気と考える方も多くいらっしゃいますが、実際には大人でも罹患するケースが多くなっています。
アトピー性皮膚炎は子どもだけの病気ではない
「大人になってから急にアトピー性皮膚炎になった!」と驚かれる方も多いかもしれません。以前は子どもに多い病気として一般的に認知されていたこともありましたが、大人の場合でも、「1)かゆみを伴う慢性的な湿疹が6か月以上続く」、「2)症状に悪化・回復の波がある」なら、アトピー性皮膚炎が疑われます。
「かゆみが続いているけれど、大人だから違うはず」と、アトピー性皮膚炎を疑わずに単なる湿疹としていると、医療機関を受診しないまま悪化してしまうことも考えられます。肌の調子がおかしいと感じたら、早めに医師の診断を受けるようにしましょう。
生活習慣がアトピー性皮膚炎の引き金に
大人になってからアトピー性皮膚炎を発症する場合、初めて発症するケースと、実は幼少期に軽症かつ早期に改善したアトピー性皮膚炎が「大人になってから再発した」ケースが考えられます。これは、子どものアトピー性皮膚炎が、食物や汗、生活環境などによって引き起こされているのに対し、大人のアトピー性皮膚炎は、生活習慣の乱れやストレス、暴飲暴食などがアレルギー要因に加わるためと考えられています。そのため、子どもにはなかった生活習慣の乱れやストレスなどによって新規に発症するほか、大人になって接触の機会が増えたアレルゲンによって再発するなどがあります。
大人のアトピー性皮膚炎の主な症状は?
大人のアトピー性皮膚炎の症状は、顔や首、胴などの上半身に湿疹が出ることが多く、特に顔は赤みを帯びたり、まゆげの外側が抜け落ちたりするほか、首には色素沈着が起こることもあります。大人のアトピー性皮膚炎は、肌が硬く厚くなる(苔癬)、肌が固く盛り上がってかゆみが持続する(痒疹)などの、繰り返し掻くことで起きる症状が多くなると言われています。どちらも強いかゆみを伴いますので、掻きむしってしまい、さらに症状が悪化する悪循環に陥りかねないため、適切な治療が欠かせません。
大人になってからのアトピー性皮膚炎は治りにくい?
睡眠不足やストレス、大人のアトピー性皮膚炎は悪化要因が多い
子ども時代と異なり、大人はアトピー性皮膚炎を悪化させる要因が多くなります。大人になって社会に出て働くことで、生活習慣が乱れて睡眠不足になったり、人間関係などのストレスが強くなったりするケースが多々あります。この悪化要因は簡単には取り除けないため、大人のアトピー性皮膚炎は、治りにくいと言えるかもしれません。
また、子どもは、成長とともに体の機能が向上することで、アレルギー反応が抑えられることもありますが、大人は成長による「改善効果」は得られません。こうしたことも、大人のアトピー性皮膚炎が治りにくいと言われる理由の1つです。
生活習慣を改善することで、悪化を防ぐ
大人のアトピー性皮膚炎だからと言って、症状が快方に向かわないわけではありません。子ども同様に、外用薬や内服薬を使用した「薬物治療」や、肌のバリア機能を高める「スキンケア」、住環境や生活習慣を整える「生活環境整備」の3つの治療をバランスよく行うことで、症状の軽減につなげることができます。
子ども時代は、保護者である親からの「治療サポート」があっても、大人になるとそうはいきません。食生活の改善や睡眠時間の確保などはもちろん、定期的に医療機関を受診して治療を続けるためには、自身の治療への「意思」が重要になります。
大人も子どもも、肌のバリア機能の改善が大切
「スキンケア」は、肌のバリア機能を回復させることで、アレルゲンや細菌などの外敵から体を守る「治療」の1つです。スキンケアでは、肌を清潔な状態にすることに加えて、肌の潤いを保つことが大切です。大人や子どもの区別なく、スキンケアはしっかりと行いましょう。
スキンケアは、肌のバリア機能を回復させる大切な「治療」
正常な肌では、表皮の最外部にある角質層が外部からの刺激を和らげたり、細菌やウィルスなどの外敵の侵入を防いだりしてくれる「バリア機能」を果たしています。このバリア機能は、肌が乾燥しているとブロックする能力が低下して、正常な機能を発揮できません。体内に簡単に侵入してしまった外敵に対し、免疫細胞が結びついてアレルギー反応が引き起こされてしまいます。
また、免疫細胞が過剰に反応すると、かゆみを感じる神経が発達して、肌の表面まで伸びてきます。これによって「かゆみを感じやすい肌」になり、かゆくて掻く→肌が刺激を受ける→ますますかゆくなって掻きむしるという悪循環を招きます。こうならないためには、丁寧なスキンケアを行い、肌のバリア機能を回復させる「治療」が大切です。
薬物療法による炎症の軽減で、肌を正常な状態へ
アトピー性皮膚炎の治療には、ステロイドやノンステロイドのタクロリムス軟膏などの外用薬を使用するほか、抗ヒスタミン薬などの内服薬液を使用する「薬物治療」があります。症状によって適切な薬物が医師から処方されますので、指示に従って使用します。
ステロイド外用薬は、症状によって使用する強さが異なり、医師が症状や部位などによって最適なものを処方します。強いステロイド外用薬を使用している場合、良くなってきたからと急にやめてしまうと、炎症がぶり返して悪化したと感じることがあります。薬物の使用にあたっては、必ず医師の指示に従うようにしましょう。
ノンステロイドのタクロリムス軟膏は、2歳以上から処方される外用薬で、炎症による赤みやかゆみを抑える効果があります。ステロイドが含まれない「ノンステロイド」の外用薬ですので、ホルモン作用による副作用はないと言われています。
ヒスタミンが神経に働くことで起きるかゆみには、抗ヒスタミン薬を処方されます。抗ヒスタミン薬ですべてのかゆみを抑えることはできませんが、強いかゆみを軽減させる効果はあります。処方される抗ヒスタミン薬の種類によっては、強い眠気を催すものもありますので、運転する人には向かないものがあります。効果や眠気の強弱など、自分に合うものを医師と相談しながら処方してもらうようにしましょう。