アトピー性皮膚炎治療で使うステロイドとは
肌の炎症を抑える「ステロイド外用薬」とは?
アトピー性皮膚炎の薬物治療では、肌の炎症を抑えることが大切になります。そこで多く用いられるのが、「ステロイド外用薬」です。ステロイドは、私たちの体の中にある「副腎皮質」という臓器で作られているホルモンで、抗炎症作用や免疫抑制作用など、体にとって大切な働きをしています。このステロイドに似た成分を含んでいるのが「ステロイド外用薬」です。
「ステロイド」は肌の炎症を抑える働きを持つ
ステロイド外用薬は、炎症を抑える効果がありますので、肌のバリア機能が低下した肌にとって、本来の機能を回復させるまでの「サポート役」となります。ステロイド外用薬は、市販薬としても販売されていますが、正しい効果を得るためには、医師の診断が欠かせません。安易に市販薬に頼らず、炎症の状態にあう最適なステロイド外用薬を処方してもらうようにしましょう。
皮疹の状態を示す言葉
腫脹:体の組織や器官の一部が腫れあがる
浮腫:皮膚の下に水がたまる
苔癬:肌が硬く厚くなる
紅斑:炎症から来る小さな点状のブツブツ
丘疹:肌が固く盛り上がってかゆみが持続する
鱗屑:剥がれた角質が肌表面に残った状態
痂皮:びらんが乾燥した状態
小水疱:表皮や表皮の下に透明な水分が溜まってできる小さな水ぶくれ
びらん:汁が出て、ジクジクする
ステロイドは怖いもの?!
アトピー性皮膚炎の炎症がひどくても、「ステロイド外用薬は怖いから」と医師から処方されたステロイド外用薬を使わないとどうなるのでしょうか。日本皮膚科学会ガイドラインでも、ステロイド外用薬は、肌の炎症を抑えるためには必要だとされています。どのような薬でも、体に影響を与える以上、副作用が起こるのは避けられないことでもあります。
ステロイド外用薬の副作用としては、以下のものが挙げられます。
■長期使用で皮膚が薄くなる
■ニキビが出やすい
■毛細血管が広がる
ステロイド内服薬は全身に副作用が出ることもありますが、外用薬は肌から体に入るため、局所的な作用が主になります。また、生じた副作用の多くは、ステロイド外用薬の使用をやめると1か月程度で回復することが多いと言われています。
作用の強さによって5段階に分かれるステロイド
ステロイド外用薬には、強さによって5段階にランク付けされています。薬物治療では、医師が症状に合った最適なランクを選び、処方します。
症状に合わせて、最適なステロイド外用薬が処方される
ステロイド外用薬は、効果の強さによってランク付けされていますが、同じランクでも有効成分が異なるものが入っています。体質によって会う成分、合わない成分があることもありますので、気になる点は医師に相談しましょう。
部位によって強さの異なるステロイドが処方されることもある
ステロイド外用薬は、肌の症状によってだけでなく、塗布する箇所によってランクの処方を変えることがあります。それは、塗布する箇所で肌への吸収率が異なるためです。同じような炎症状態であっても、吸収率の高い顔にはⅣ群のミディアム、顔よりも吸収率が低い体にはⅢ群のストロングなど、複数のランクのステロイド外用薬を指示に従って使用します。
医師から、「顔にはⅣ群、体にはⅢ群」などと処方された場合、「全身同じものを使っていいのでは?」とするのはおすすめできません。適切な強さを超えたステロイド外用薬を使えば、不要な副作用を引き起こしかねず、弱すぎるものを使っても思ったような治療効果を上げられないことがあるからです。ステロイド外用薬は、医師の指示に従って使用することが大切です。
ステロイドを塗る量の目安や、塗り方とは?
炎症を抑える働きを持つステロイド外用薬ですが、どのくらい使用するのが良いのか、わからないという方もいらっしゃるかもしれません。塗りすぎても良くないですし、少なすぎても思った効果を上げることができません。ポイントは、ワン・フィンガー・チップ・ユニットです。
ワン・フィンガー・チップ・ユニット(1FTU)とは?
ワン・フィンガー・チップ・ユニットとは、大人の人差し指の先端から第一関節まで、軟膏材やクリーム剤を出すと、おおよそ0.5gになるとする、使用量の目安を指します(ただし、口径5mmのチューブの場合)。この0.5gは、特段指示がない限りは、大人の両手のひら分の面積に使用する量となります。なお、症状が回復してきた場合、指示される量が少なくなることがあります。
すりこまずに、スタンプするように優しく肌に「のせる」
手はきれいに洗ってから塗る
ステロイド外用薬を塗る際は、まず手を綺麗に洗うようにしましょう。汚れた手で塗り広げてしまうと、刺激物や雑菌などを肌に広げてしまうことにもなります。
塗るタイミングは、「入浴後の清潔な肌」
入浴して体の清潔を保つのは、スキンケア治療の第一歩です。汚れやアレルゲンなどを取り除いた清潔な肌に、外用薬を塗るようにしましょう。保湿剤が先か、ステロイド外用薬が先かは、医師の指示に従って使用します。
肌にステロイドが残ったままで塗り重ねても、効果が出にくい
せっかく入浴してきれいになったと思っていても、ステロイド外用薬が落としきれず、肌に残ったままになっていることがあります。肌にステロイド外用薬が残ったまま、入浴後さらに塗っても、その効果は薄くなると言われています。しっかり落とそうと、ゴシゴシ洗うのは避けなければなりませんが、優しく泡で丁寧に、でもしっかりと洗い流すことが大切です。
薄く塗ると、思った効果が得られないことも
湿疹や炎症で肌がなめらかな状態でない場合、薄く塗ると炎症を起こしている出っ張った箇所に外用薬がつかず、炎症を抑えられないことがあります。
こすらずに、優しくステロイド外用薬を「ポンポン」とスタンプ
しっかり塗ろうとゴシゴシすり込むように塗ると、それが肌への刺激やダメージにつながり、炎症を引き起こします。ステロイド外用薬はもちろん、保湿剤を塗る際にも、手のひら全体に適量を伸ばして、優しく肌をスタンプするようにのせていくのがポイントです。
薬物治療の主流になった「プロアクティブ療法」
プロアクティブ療法とは?
「薬は症状が出たときだけ使うもの」と思っていませんか。アトピー性皮膚炎の薬物治療では、再発しにくい状況をコントロールするため、予防的観点から治療を行う「プロアクティブ療法」が主流になってきています。プロアクティブ療法は、症状が治まってきたからと言って、急にステロイド外用薬を止めるのではなく、1度に使用する量を減らしたり、使用する日の間隔を徐々に開けたりしていく方法です。
肌がきれいになってからが「勝負」! 徐々に量や回数を減らすのがポイント
プロアクティブ療法は、肌表面の状態が改善してから開始します。炎症が残っている状態では、炎症を抑えられずに悪化することもあります。始めるタイミングや開ける間隔などは、症状によって医師が判断しますので、自己判断で行わないようにしましょう。